詩の覚え書き

悲しみの氷雪。風化を撒き散らしていく。

 

花瓶

「鑑賞物である花瓶や花」になったような気持ちが美の正体だと思う。花瓶は窮屈でたまらずまた花を見るならざわついて堪らない。そこに人は自身を投影させあるいは希望を押しつける。愚かな人間。しかしそんな業から私自身も逃れられてはいない

 

横顔

なにか人理を超えたものがその横顔を通り過ぎる。鳥がとぶ影のやうに、瞬間のきらめきを頬にのこす。私は驚き、まじまじと見つめるが、その時にはすでにその煌めきは通りすぎている。

 

幸福

「あなた、希望をびりびりに引き裂いてやりたくなることはありませんか」「幸福を、自分を救う手でさえも、立ちくらむような眩い光でさえ 踏みにじってやりたくなることは?」「私は怖いのです。幸せになることが怖いのです」 

 

私の心には自然、暗い情念が満ちる。巌に満ちる黒い潮のように。愛と死、善意と残酷、花と暗闇。凍りつくような冷たさのなかをその面影だけが冷えたつま先を暖める。 

 

心臓

その人は驚いたようにこちらをみてそれから放心した。目をあわせて話すあいだも何かものめずらしい絵画をみるようにこちらをみていた。こう言うとき、いつも物悲しい。それから、心臓をとりだしてみせてやりたい。この憎悪と嫌悪と、いやらしい獣性で腐ったこの心臓を